老人ホームやデイサービスで働く介護職員で、認知症の人の「家に帰ります。」という言葉に悩んでいる人はいませんか?
一生懸命、ご利用者のためにと思って仕事をしていても、「家に帰りたい。」と言われると、さみしい気持ちになったり、そのかかわり方に困難さを感じたりする人もいるかもしれません。
私のことをお話すると、特別養護老人ホーム介護職員をやっていたときに、認知症の人の言動で一番困ったのは「家に帰りたい。」という言葉でした。
その当時、働いて職場の人から
「痴呆(その当時は「痴呆」と呼ばれていました)の人との関わるときは『役者』になることが大切だよ。」
と教わりました。
「役者になることが大切。」
つまり、認知症の人の言動には、役者のように演じながら接すること。
もっと分かりやすく言うと、
「ウソやごまかしながら対応することが大切。」
ということを教えてもらいました。
その当時の私は、正しい認知症ケアの方法を知らなかったため、ウソやごまかしばかりの対応でした。
それから、認知症ケアの研修を受講する機会があり、認知症の人の「家に帰りたい。」という言動に対応することだけが認知症ケアではないということを学びました。
そして、正しいケアを実践することで、認知症の人の帰宅願望は軽減します。
また、自分自身の認知症の人に対する見方が変わりました。
この記事が、認知症の人の帰宅願望にお悩みの方のお役に立てれば幸いです。
認知症の特徴
まず、認知症の人の特徴を考えてみましょう。
認知症の原因疾患の中で一番多いと言われているアルツハイマー型認知症の中核症状には、記録障害や見当識障害などがあります。
例えば、老人ホームに入居している認知症の人の場合、
- 自宅で生活ができなくなったから老人ホームに入居している記憶がない。
- 老人ホームの職員のことがわからない。
- 今、自分がいる場所がわからない。
といった状態にあると言えます。
これは、認知症ではない人が「自宅で生活することができなくなったから老人ホームに入居した」ということを理解しているのとは大きな違いです。
もし、自分に置き換えてみたらどうでしょうか?
「知らない人や物に囲まれている状態。」
もしかすると、これを読んでいる人も「家に帰ります。」という訴える人もいるのではないでしょうか。
そして、その訴えを誰も聞いてくれなければ、玄関をガチャガチャしたり、出口を探して他の人の居室に入ったりといった行動をしても、不思議ではありません。
支援方法を考える
では、どのように支援すれば良いのでしょうか。
具体的に考えていきましょう。
これまでの認知症ケアは、
認知症の人
「家に帰ります」
介護職員
「今日はバスが終わってしまったので、明日帰りましょう。」
「今、タクシーを呼んでいるからちょっと待っててください。」
「散歩に行きましょう。」
などと声をかけ、認知症の人が「家に帰る。」と訴えなくなるのを待つ、といった対応が多いのではないでしょうか。
私も認知症の研修を受けるまではそのような対応方法でした。
しかし、このような対応方法では、余計に帰宅願望が強くなったり怒られたりとうまくいかないことも多くあります。
先ほども書いたように、認知症の人は、記憶障害や見当識、判断力の低下などの障害があることが多く、自分が考えていることを正しく相手に伝えることが難しい状態になっています。
そこで、認知症の人の言動の背景を考え、その背景に合ったケアを実践することが必要になります。
例えば、
- お腹が空いていたり、喉が渇いていないか?
- 体に痛みや痒みはないか?
- ここにいることに不安を感じていないか?
- 何をしていいのか不安になっていないか?
- 家族に会いたかったり、声を聞きたいと思っていないか?
- ザワザワして落ち着かない環境ではないか?
- 疲れたので休みたいのではないか?
- 便秘はしていないか?
- 飲んでいる薬の副作用などないか?
など考えればたくさん出てきます。
「認知症だから帰宅願望がある」
ではなく、
「なにか理由があるから帰宅願望がある」
このように考えることで、色々な支援方法のアイデアが浮かぶと思います。
そして、認知症の人の言動の原因を考え、その原因に対してアプローチをしていく中で、それまで「認知症」というベールに包まれて見えなかったものが見えてくると思います。
まとめ
いかがでしたか。
認知症の人が「家に帰る。」といった言動があるときに、「この対応で落ち着きます。」といった魔法のケアはありません。
繰り返しになりますが、認知症の人の言動の原因は何かを考え、その原因を解決するために実践をすること。
これが大切になります。
もちろんすぐには結果はでないことも多いでしょう。
しかし、時間はかかるかもしれませんが、地道に支援することが大切です。
以上、認知症の人の帰宅願望の対応について書いてきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。