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認知症ケアの基本的な視点

認知症ケアがうまくいかずに悩んでいるケアスタッフは、これまでの「視点」を変えてみるといいかもしれません。

認知症ケアの基本的な視点は、

「この人は、どうしてこのような行動をするのだろう?」

ということ。

以下、事例を検討しながら認知症ケアの基本的な視点について考えてみたいと思います。

何でも認知症のせいにしていませんか?

目の前の認知症の人の行動は、すべて認知症によるものですか?

まずはここから考えてみましょう。

介護の現場では「ニンチが入っているから仕方がない」「どうせニンチだから…」と耳にすることがあります。

確かに、アルツハイマー型認知症などが原因で脳に障害が起こり、記憶障害や見当識障害(モノや時間、人が分からなくなる)、失認(モノを間違える)、失行(動作がうまくできない)などといった症状が現れることがあります。

しかし、認知症の人の行動は、脳の障害だけが原因ではありません。

パーソン・センタード・ケア(近年の認知症ケアの基礎となる考え方)では、認知症をもつ人の行動は、脳の障害の他に次のことが影響しているとしています。

  • 性格傾向
  • 生活歴
  • 身体の健康状態
  • 社会心理

精神科病院から特養に入居したAさん

私が特別養護老人ホームに勤務していたときのご利用者(Aさん)の話をしたいと思います。

Aさんは、奥さんと二人で暮らしていましたが、徐々に物忘れなど認知症の症状が出現。

奥さん一人での介護は困難となり、Aさんは、有料老人ホームに入居することになりました。

Aさんは、有料老人ホームに入居してからすぐに「オーイ、オーイ」と大きな声を出すようになったそうです。

その声がとても大きく、入居していた老人ホームでは、

「他のご利用者に迷惑がかかってしまう」

と考え、Aさんは精神科病院へ入院することになりました。

2~3ヵ月入院し、退院をする時期になりましたが、元々入居していた老人ホームは、受け入れに難色を示し、結局、私が勤務する特別養護老人ホームに入居することになりました。

精神科病院からの情報では、「大声を出すことはあるが、もう治療することはない。」ということ。

確かに、入居後してからも「おーい!」と大声を出しています。

そのため、ケアスタッフは

「他の人の迷惑になってしまうので、もっと小さい声で話してください。」

と声をかけ、Aさんの声を小さくするためにはどうすればいいか、と対応策を考えていました。

しかし、Aさんの大声での声出しは治まりません。

そこで、視点を変え

「Aさんは、なぜ大きな声を出すんだろう?」

ということを考えてみました。

そして、ご本人や奥さん、娘さん、ケアスタッフの情報を整理すると、

  • 「『おーい!』の他に『母ちゃーん!』」と言っている。
  • 「母ちゃん」は奥さんのこと。
  • 家にいるときは何でも奥さんに頼る性格。
  • 夕食後に声を出すことが多い。
  • 声を出している時も怒ったり苛立った様子はない。
  • 夫婦仲はとても良かった。
  • 痛みや不快感など身体的な異常はない。

などといったことが分かりました。

そこで、Aさんが大きな声を出す原因は、

「夕方になって、奥さんのことを心配して声を出すのではないか?」

と考えました。

そうすると、これまでの大声を出す(迷惑行為をする)Aさんから、奥さんのことを心配するAさんに視点が転換しました。

視点が変わるとケアが変わる

視点が変わることによって、Aさんに対するケアが変わります。

それまでは、

「他の人の迷惑になってしまうので、もっと小さい声で話してください。」

と声掛け。

↓だったのが、

奥さんと電話で話をしてもらう。

奥さんに夕方面会に来てもらう。

家族の写真を部屋の中に置く。

奥さんは家にいるから安心してもらうように声をかける。

など。

このようなケアを実践した結果、Aさんは、声を出すこともありましたが、長く声を出すことはなくなりました。

他のご利用者からも苦情が上がることはありません。

すべての人がわかるか?

認知症ケアの視点として、

「この人は、どうしてこのような行動をするんだろう?」

と行動の背景に視点を向けることが大切です、お伝えしてきました。

しかし、認知症をもつ人のことすべてわかるか、と言われば、当然わかるはずがありません。

何年も一緒に暮らす家族や恋人ですら、相手の考えていることなんてわかるはずがないですから。

認知症をもつ人も当たり前ですが「人」。

むしろ

「この認知症の人のことは自分はすべて知っているんだ」

と考えることは、危険な考え方かもしれません。

まずは、相手の事を理解しようと情報を収集し、認知症の人が何に困っているのか、何を望んでいるのかを想像することはとても大切です。

視点を変え、考えられる原因に対してアプローチすることによって、認知症の症状はよい状態になります。

その結果、ケアスタッフも専門性と自信を持って認知症ケアを行うことができるのではないかと考えます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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プロフィール

スター行政書士事務所 山田拓郎
1999年に社会福祉法人に入社し、特別養護老人ホームの介護職・生活相談員・ケアマネージャー、グループホーム管理者として勤務。

「一人ひとりが輝ける社会の実現を目指す」をミッションにスター行政書士事務所を開業。現在は、福祉事業所の開業支援や任意後見人として活動している。認知症ケア・虐待防止研修等の講師実績多数。

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