福祉の仕事をしていると、「その人らしさを大切にしましょう」といったことを耳にすることがあると思います。

では、「その人らしさ」って何でしょう?

例えば、綺麗好き、毎朝新聞を読む、歌が好き、野菜が嫌い、などその人の性格や習慣、趣味、嗜好もその人らしさだと思います。

確かに、身体機能や認知機能の低下により、今までできていたことができなくなることがあります。

また、老人ホームなどの施設に入った場合、それまでその人の生活と全く異なった暮らしを強いられることも少なくありません。

その上で「その人らしさを尊重しましょう」と言われるのかもしれません。

「施設に入居しても、これまでの本人の生活をできるだけ継続したケアを提供しましょう」

「利用者にとって過度な制限はせず、その人の習慣や趣味が行えるような環境を整備しましょう」

という意味で「その人らしさを尊重しましょう」と。

では、これまでの習慣や趣味が行えるような環境を整備すれば「その人らしさ」を尊重することになるのでしょうか。

私は、介護職に求められる「その人らしさ」を尊重したケアとは、もっと奥の深いものではないかと思います。

例えば、先ほど書いた「野菜が嫌い」。

確かに、「野菜が嫌いな人に対して、無理やり野菜を食べさせない」ということはその人を尊重することになるでしょう。

もっとも、「野菜が嫌い」という背景には、いろいろな理由があると思います。

例えば、実際に私が関わった人の中には、「戦争の時に野菜ばかり食べさせられて、野菜を見ると戦争を思い出すから嫌い」「稼業が肉屋だったので、野菜を食べる機会がなかった」など。

また、「歌が好き」といっても、「若いころから夜の商売をやっていてカラオケが好き」、「友人とのサークル活動をやるようになってから歌うことが好きになった」など。

表面的には、「野菜嫌い」「歌が好き」といっても、人によってその背景は異なります。

介護に必要な「その人らしさを尊重したケア」とは、その人の表面的な性格や習慣、趣味、嗜好を尊重することだけではなく、これまでその人が歩んできた背景を理解するように努め、「○○さんらしさとは何だろう?」と考え続けることが大切なのではないかと思います。