介護事業所を利用している認知症の人の多くは、職員による虐待とは無縁のところにいると思います。
しかし、平成 30 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)によると、介護事業所の職員による虐待のうち認知症自立度Ⅱ以上の件数は、746件、全体の80.5%になります。
なぜ、介護事業所の職員による虐待のうち認知症の人の割合が高いのでしょうか?
私が考える主な理由は3つ。
- 職員が認知症の人の行動を理解できない
- 認知症の人には記録障害がある
- 事業所が虐待防止に関する取り組みをしていない
認知症の人の行動が理解できない
「夜、大声を出す」
「歩行が不安定なのに一人でフラフラ歩き出す」
私も含めてですが、このような認知症の人の行動は、多くの職員にとって簡単に理解できるものではないと思います。
「夜、大きな声を出されては、せっかく寝ている他の利用者も起きてしまう」
「転んでしまったら、痛い思いをさせてしまう、事故報告を書かなければならなくなる」
理由は様々だと思いますが、このような認知症の人の行動に対する精神的な負担は大きくなります。
記録障害がある
認知症の中で一番多い原因疾患はアルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症の典型的な中核症状は「記憶障害」
特に短期記憶の低下が現れます。
記憶障害がある認知症の人は、自分自身に対して行われたことを時間の経過とともに忘れてしまい、他の人に伝えることが難しくなります。
先ほど書いたような認知症の人の行動に強いストレスを感じた職員は、普段とは異なる精神状態になっているかもしれません。
その場合でも、相手の記憶機能に問題がなければ、「自分が虐待行為をしたら、後で通報されるかもしれない。」などと歯止めがかかると思います。
しかし、相手が記憶障害がある認知症の人の場合には、職員に歯止めがかからなくなってしまうことが考えられます。
事業所が虐待防止に関する取り組みをしていない
介護事業所の職員による高齢者虐待は、職員の個人的な問題というより、事業所自体の問題が大きいと考えます。
虐待防止に取り組む事業所の姿勢が問われます。
例えば、研修。
現在、介護事業所においては、高齢者虐待防止の研修が義務付けられています。
しかし「職員が忙しいので、虐待防止の研修はやっていない」という話を聞きます。
これは逆で、「忙しい現場だからからこそ虐待が起きる可能性がある」ということを事業所として理解しなければなりません。
また、事業所が「不適切なケアを注意しあえる環境にない」という場合も虐待につながる危険性があります。
介護事業所の職員たちは、仲良しクラブの集まりではありません。
よりよいケアを実践するためのチームだと思います。
自分が提供しているケアが完璧ではない、ということを理解し、お互いがコミュニケーションを取り合いながら、ケアの質を高めていくことが大切だと思います。
まとめ
以上、介護事業所で認知症の人はなぜ虐待を受けるかについて書いてみました。
私自身、特別養護老人ホームの夜勤をやっていた時は、認知症の人の行動に対して精神的に負担を感じることもありました。
私自身の経験から、職員による高齢者虐待を防止するためには、認知症の人の特徴を理解し、トップを中心に事業所全体で虐待防止に取り組むことが大切だと思います。
そして、高齢者にとって利用しやすく、職員にとって働き甲斐がある事業所になることを願います。