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【リスクマネジメント】老人ホームでの転倒事故 裁判例

「特別養護老人ホームや老人保健施設で事故により死亡した利用者数、2017年は少なくとも1547人。」

これは、2019年3月に厚生労働省が発表した数字です。

「事故」についての定義や自治体への報告の仕方は統一されていないため、事故内容の詳細や正確な件数は分かりませんが、数字だけを見ると「多い」と思った人もいるのではないでしょうか。

特別養護老人ホームや老人保健施設といった介護事業所は、介護が必要な高齢者が利用します。

その中には、判断力の低下した認知症の人や歩行が不安定な人、飲み込む機能が低下した人なども多く、事業所で働く職員は、常に転倒事故や誤嚥と隣り合わせになっているといえます。

私は、これまで約19年間、高齢者施設の生活相談員やケアマネージャーとして仕事をしてきた経験から、限られた職員数の中で事故をゼロにすることは不可能だと思いますし、ゼロを目指すべきではないとも思っています。

なぜなら、介護事故ゼロを目指すということは、ご本人のプライバシーを無視して、見守りという名の監視をしてしまったり、ご利用者の自由を奪ってまで言葉や物によって抑制することにつながってしまうことが懸念されるからです。

もちろん、防げる事故もありますので、ヒヤリハット報告などを活用し、事故原因を分析し改善するのは大切なことです。

しかし、不幸にも転倒や誤嚥が原因で、骨折や死亡といった重大な結果になった場合、そこからトラブルに発展し、裁判になる場合があります。

この記事では、介護事故が起きた時に裁判所がどのような判断しているかを紹介し、トラブルを未然に回避するための方法について考えていきたいと思います。

この記事が介護事業所の職員のお役に立てれば幸いです。

 

老人保健施設で畳対応からベッド対応へ変更した後の転倒事故

 

事案

老人保健施設(以下「老健」)に入所中のAさん(女性)がベッドから転倒転落し、意識障害になったまま11カ月後に死亡した事案です。

Aさんは老健に入所する前は、陳旧性心筋梗塞による心不全のため病院に入院していました。

ご家族は、老健側に「入院中の病院では、ベッド柵を乗り越えたことがあり、布団対応をしてもらっていた。また、自宅でもベッドを使用したことがなく、ベッドに慣れていないので、畳対応にしてほしい。」と伝えていました。

そのため、老健に入所してからは、床の上にマット、その上に布団を敷き対応をしていました。

ところが、入所1か月後の早朝、Aさんが前頭部を両手で抑え「壁にぶつけた、ドンと音がした。」と話したため、多職種間で検討した結果、布団での対応では、立ち上がる時につかまる所がなく転倒しやすいことや、畳やマットの端に足がひっかかり危険であり、却って転倒のリスクが高いと判断し、布団からベッド対応に変更をしました。

布団からベッド対応に変えたことは、事前にも事後にも家族に知らされることはありませんでした。

ベッドに変更してから2週間後、頭と背中を下にしてベッドから落ち、それから意識障害に陥り急性硬膜下血腫と診断され、一度も意識を回復することなく、事故から11か月後に死亡しました。

 

裁判所の判断

損害賠償2,442万円認容

(老健は)Aが過去にベッド柵を乗り越えたことがあり、高度の認知症及びうつ状態にあったことを十分に知っていたのだから、活動性の出てきたベッドに慣れていないAが、ベッドから転落転倒する危険性があることを予見すべきであり、畳対応からベッド対応にすべきではなかったのであり、ベッド対応に変更したこと自体に被告の重大な注意義務違反があり、また、あえてベッド対応にした以上はAが転倒転落することを防止すべき措置を講じるべき義務があったが、被告は、ベッドの柵の位置を工夫したりベッドの下にマットを敷くなどの十分な防止措置を施していなかったとするのが相当である。

 

トラブル防止のために必要なこと

事業所にとっては大変厳しい判決結果だと思います。

裁判所は「ベッドから転落転倒する危険性があることを予見すべきであり、畳対応からベッド対応にすべきではなかったのであり、ベッド対応に変更したこと自体に被告の重大な注意義務違反があり」と言っていますが、介護事業所は、日々変化するご利用者の状況により、迅速に対応方法を判断しなければなりません。

今回の場合、布団対応をしていて、壁に頭をぶつけているわけですから、多職種で検討し、布団からベッド対応にすることの判断はあり得るのではないかと思います。

むしろ私は、布団からベッドに変更したことに重大な注意義務違反があったというよりも、ベッド対応変更後に注意義務違反があったのか、具体的には、裁判所も指摘していますが、ベッドの柵の位置(もちろん4点柵ではなく)やベッドの下にマットを使用しなかったことについて、事業所に注意義務違反があったのか否かを検討するべきだと思います。

 

では、この事例の中でどのようにしたらトラブルを未然に防止できたのでしょうか。

事故前後のご家族とのやり取りが分からないため、詳しいことは言えませんが、裁判の中で、裁判所は「事業所がベッド対応に変更したことを家族に伝えていなかった」と認定しています(事業所側は伝えたと主張していますが)。

もし、多職種間での検討の場に、ご家族も参加して一緒に検討するか、事情があってご家族が参加することができないとしても、カンファレンスの前後に現在のAさんの状態を報告し、今後の対応策について相談をし、そのことを記録に残していれば事故が起こったとしても裁判にはならなかった可能性があります。

事業所として、色々な角度から転倒防止のために検討し、その対応に最善を尽くしたつもりでも、家族によって受け取り方は違うので、しっかりとした説明や相談をし、ご家族と事業所が共通理解の下、ご利用者の生活について判断していくことが大切だと思います。

 

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

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プロフィール

  
スター行政書士事務所 山田拓郎
【事業所理念】一人ひとりが輝ける社会の実現を目指します

福祉事業所設立支援/後見業務/研修講師

神奈川県相模原市

介護福祉士/ケアマネージャー/認知症介護指導者(認知症介護研究・研修東京センター)/上級リスクマネージャー/パーソン・センタード・ケアと認知症ケアマッピング基礎コース研修修了

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