こんにちは。
スター行政書士事務所の山田です。
このブログでは、私がこれまで20年以上高齢者福祉に関わってきた経験と介護職員向けの研修でお話してきたことなどをお伝えしたいと思います。
このブログが、少しでも介護の現場で頑張る皆様のお役に立てれば幸いです。
今日は「認知症の人の精神科受診」をテーマに書いていきます。
「入居しているAさんですが、最近落ち着かず、不穏になることが多く、本人も辛そうなので、精神科の先生に診てもらいたいと思います。」
これは、私が後見人として関わっているAさん(レビー小体型認知症)が入居しているグループホームの管理者さんからあった電話の内容です。
この管理者さんは「精神科に受診して、気分の落ち着く薬を飲んでもらいたい。」といった意向があるようです。
確かに「Aさんが不穏で辛そう」というのは、常にAさんに接している介護スタッフだからこそわかることで、そのように感じると思います。
一方で「気分を落ち着かせる薬を飲んだ方がいいのではないか」という背景には、スタッフ自身も認知症の人が落ち着かないことによって、辛い思いをしているのではないかと思います。
私は、決して「気分の落ち着く薬」を飲むことが悪いとは思いません。
社会生活を営む上で、そのような薬が必要な人もいます。
しかし、精神科の気分を落ち着かせる薬を飲んだ後から、歩行できなくなったり、食事の時にむせこむようになったり、常に唾液を垂らす、表情が乏しくなり喜怒哀楽がわかならなくなる人といった人を多く見てきました。
私は、医師ではないので、このような症状と薬の因果関係についての詳細は分かりませんが、薬を飲み始めた時期と症状との関係から見て、何らかの影響が出ているのだと思います。
このように薬を飲むことによって、ADL、QOLが低下していく人を多く見てきた者とすれば、できるだけ薬ではなくケアでなんとかしたい、と思ってしまいます。
しかし、残念なことに
「○○というケアを実践すれば、すぐに認知症の人の混乱や不穏は治まります。」
というような魔法のケアはありません。
しかし、一見遠回りに見えるかもしれませんが、認知症ケアの基本的な考え方を理解し、実践することで、気分を落ち着かせる薬を飲まなくても、認知症の人は落ち着いた生活を送ることも少なくないと思っています。
ここで、近年の認知症ケアの基本的な考え方である「パーソンセンタードケア」を紹介したいと思います。
パーソンセンタードケアを提唱したトム・キットウッドは、次の要因すべてが、認知症の人の行動に影響を与えると考えました。
- 脳の障害
- 身体の健康状態
- 生活歴
- 性格傾向
- 社会心理
今回は、非薬物療法というテーマで書いているので、ここでは、①脳の障害と②身体の健康状態について、介護の視点から書いてみます。
- 脳の障害
認知症の人は、脳の障害によって記憶障害や手順を計画する力、時間・場所・人が分からなくなるといった症状が現れます。
このほかに先ほどのAさんのようにレビー小体型認知症の認知症の人は、幻視やパーキンソン症状、変動性の認知機能障害といった症状が現れます。
Aさんの「落ち着かない」「混乱する」という状態は、レビー小体型認知症の変動性の認知症機能障害が原因になっているのかもしれません。
- 身体の健康状態
認知症の人の行動は、身体の健康状態によっても影響を受けます。
つい、認知症の人の行動の理由を「認知症だから」と決めつけてしまっていることもあるのではないでしょうか。
しかし、便秘や脱水症状、尿路感染、ホルモンバランスなど色々なことが影響していることがあります。
また、高齢者の中には、たくさん薬を飲んでいる人も多く、薬の副作用や飲み合わせによって、何らかの影響が出ていることもあるのではないでしょうか。
その他、視力・聴力の低下も認知症の人の行動に影響を与えます。
急に興奮や混乱などが見られた場合には、「認知症が進んだ」と決めつけずに、身体の不調がないか観察した方が良いと思います。
そして、精神科に受診するのであれば、「気分の落ち着く薬を処方してもらいたい」と相談するのではなく、まずは、認知症の人の全身状態を診てもらったり、薬の副作用や整理を相談したほうが良いのではないかと思います。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。