認知症の中核症状とBPSD(行動・心理症状)

認知症の原因の中で一番多いと言われているアルツハイマー型認知症。

「アルツハイマー型認知症の症状は?」

と聞かれて、まず「記憶障害」を思い出す方も多いのではないでしょうか。

確かに、記録障害はアルツハイマー型認知症の代表的な症状ですが、アルツハイマー型認知症は他にもさまざまな症状が出現します。

これからアルツハイマー型認知症の症状を見てみましょう。

アルツハイマー型認知症の症状を考える上で、中核症状BPSD(行動・心理症状)に分けて考えることが必要です。

突然、BPSDというアルファベットが出てきたので、難しく感じたかもしれません。

BPSDとは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの頭文字をとったもので、認知症の行動・心理症状という意味です。

BPSD(行動・心理症状)については、後で説明しますので、あまり気にせず読んでください。

まずは中核症状から見てみましょう。

 

認知症の中核症状

中核症状は、脳の神経細胞がダメージを受けたことが直接の原因で出現する症状です。

上の図にあるように、主に『記憶障害』・『見当識の障害』・『実行機能障害』・『理解・判断力の低下』が挙げられます。

中核症状別 認知症人の行動例はこちらから

次にBPSD(行動・心理症状)を見てましょう。

 

認知症のBPSD(行動・心理症状)

BPSD(行動・心理症状)は、中核症状が原因となって引き起こされる二次的な症状のことです。

「中核症状が原因となって引き起こされる二次的な症状」と言われても分かりづらいかもしれないので、上の図を見てみましょう。

まず、先ほど書いたように、脳がダメージを受けることで記録障害や見当識障害といった中核症状が出現します。

そして、その中核症状に様々な要因が影響し、二次的にBPSD(行動・心理症状)が出現する、という図になります。

イメージができるように事例から考えてみましょう。

 

【事例:昨晩から口内炎が出来ていて、熱いお茶を飲むことができないグループホームに入居中の認知症のAさん】

認知症のAさん(中核症状として、記録障害、理解・判断力の低下、人物の見当識障害が出現)と、認知症ではないBさんと比較をしてみましょう。

認知症のAさん 認知症ではないBさん
記憶障害 いつから口の中が痛いかわからない。 昨晩できた口内炎と分かる。
理解・判断力の低下 口の中の痛みは分かるが、口内炎による痛みだと判断できない。 口の中が痛いのは口内炎だから熱い飲み物は飲みたくないと判断できる。
人物の見当識障害 グループホームの職員の顔は知っているが、自分を支援するために働いている人だということを認識できない。 グループホームで働いている職員だと認識している。

認知症のAさんと認知症のないBさんでは、このような違いがあることが考えられます。

認知症のないBさんだったら、グループホームの職員さんから熱いお茶を勧められた時、

「今、口内炎が出来ていて熱いものが飲めないから、冷ましてから飲みます。」

と伝えることが可能です。

しかし、認知症のAさんの場合、中核症状の影響で、Bさんのようにグループホームの職員に対して、適切な内容を伝えることが難しくなっていると考えられます。

このような状況のAさんを見たグループホームの職員が、「あれ?なんでAさんお茶を飲まないんだろう?認知症が進んでしまったかな?」などと考え、何度も「お茶を飲んでください。」と勧めたり、湯飲みをAさんの口に近づけようとしたらAさんはどのような行動を取るでしょうか?

「うるさい!」

↑暴言

職員の手を払う

↑暴力

となる可能性があります。

ここまでを振り返ってみると、

中核症状として、①記憶障害 ②理解・判断力の低下 ③人物の見当識障害が現れる

Aさんにとって不適切なケアがある。

その結果として、二次的に暴言、暴力というBPSD(行動・心理症状)が出現する。

という関係になります。

この場合、グループホームの職員さんに求められるケアは、何度も熱いお茶を進めたり無理にお茶を飲んでもらおうとすることではなく、冷たい飲み物を用意したり、口腔内に薬を塗ったりすることだと思います。

 

認知症ケアでは、「お茶を飲まない。」といった認知症の人の行動にどう対応するか、ということだけでなく、なぜお茶を飲まないのか?原因を考えることが大切です。

もちろん、いくら原因を考えても、相手が人である以上、原因がすべて理解できるといったことはありません。

しかし、Aさんをよく観察し原因を考えることによって、認知症のAさんのことを少しづつでも理解することができると思います。

もしかしたら、認知症の人が、「家に帰ります!」と言って玄関のカギをガチャガチャしていたり、入浴の声掛けをしても拒否される、といった今まで援助者が困難と感じていた行動も少しずつ理解できるようになるかもしれません。

 

「目の前の行動に対応するだけではなく、その状態を起こしている原因や背景を考える。」

 

この視点が認知症ケアを行う上で重要になります。

 

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。