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認知症高齢者グループホームや有料老人ホームの職員が最低限知っておきたい高齢者虐待防止法

認知症高齢者グループホームや有料老人ホームで仕事をしている人は「高齢者虐待防止法(正式名:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)」という名前の法律を聞いたことがあると思います。

しかし、その内容はどうなっているのか、ということについては「よく分からない。」という人も多いのではないでしょうか?

ここでは、認知症高齢者グループホームや有料老人ホームで働く職員が、最低限知っておくべき高齢者虐待防止法について書いていきます。

高齢者介護の専門職として、虐待について知っておくべきことは色々とあると思いますが、ここでは「最低限知っておかなければいけない」と思うことを書いていきますので、もっと勉強したいと思う人は書籍などで確認してみてください。

2018年から、認知症高齢者グループホームや有料老人ホームでは、介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的(年2回及び新規採用時)に実施することが制度化されました。この資料が事業所で行われる研修などでお役に立つことができれば幸いです。

高齢者虐待防止法は何を目的とした法律か?

高齢者虐待防止法(以下「法」と書きます)は、何を目的として作られた法律でしょうか。

法第1条には、この法律の目的が明記されています。

第1条の内容は次の①②③です。

①高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要である

②高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等養護者に対する支援のための措置等を定める

③②を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資すること目的とする

 

ここでの「養護者」とは、在宅で高齢者を介護する、家族や同居人だと思ってください。

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」という法律の名称や目的からもわかるように、この法律は、虐待を受けている高齢者の救済とともに、虐待をする側になりかねない養護者の支援にも目を向けています。

ですので「虐待をした家族を罰します!」という法律ではありません。

ところで、先ほど「養護者」とは「在宅で高齢者を介護する、家族や同居人」と書きました。

では、認知症高齢者グループホームや有料老人ホームで働く職員は?というと、法律上「養護者」ではなく「養介護施設従事者等」になります。(法第5条)。

そして認知症高齢者グループホームや有料法人ホームで働く人であれば、介護職員以外の施設長や看護師、栄養士なども養介護施設従事者等に含まれます。

以下では、認知症高齢者グループホームや有料老人ホームで働く職員のことを「養介護施設従事者等」と言います。

高齢者虐待の定義と行為例

法第2条5項では、高齢者虐待の定義として次の5つの行為類型を定めています。下線部の行為例は厚生労働省「高齢者虐待防止法の基本」より抜粋したものです。

① 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること(身体的虐待)

行為例:平手打ちをする、つねる、殴る、蹴る、ぶつかって転ばせる、介護がしやすいように職員の都合でベッド等へ抑えつける

食事の際に職員の都合で本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる、「緊急やむを得ない」場合以外の身体拘束・抑制 など

「緊急やむを得ない」場合以外の身体拘束・抑制も身体的虐待に該当します。

では「緊急やむを得ない」場合とはどういう場合でしょうか。

それは次の①②③をすべて満たした場合です。

①切迫性(利用者本人または他の利用者の生命または身体が危険性にさらされる可能性が著しく高い場合)

②非代替性(身体拘束以外に代替する介護方法がないこと)

③一時性(身体拘束は一時的なものであること)

これら①②③全ての要件を満たさない身体拘束・抑制は身体的虐待に該当します。

 

②高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること(ネグレクト)

行為例:必要とされる介護や世話を怠り高齢者の生活環境、身体や精神状態を悪化させる行為 髪、ひげ、爪が伸び放題 汚れのひどい服や破れた服を着せている おむつが汚れている状態を日常的に放置している 医療が必要な状況にも関わらず受診させない ナースコール等を使用させない、手の届かないところに置く 他の利用者に暴力を振るう高齢者に対して何ら予防的手立てをしていない その他職務上の義務を著しく怠ること

 

③高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(心理的虐待)

行為例:怒鳴る、罵る、「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」などと言い脅す 排せつの失敗や食べこぼしなど老化現象やそれに伴う言動等を嘲笑する 日常的にからかったり「死ね」など侮蔑的なことを言う 排せつ介助の際、「臭い」「汚い」などと言う 子ども扱いするような呼称で呼ぶ 「意味もなくコールを押さないで」「なんでこんなことができないの」などと言う 話しかけ、ナースコール等を無視する トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う 自分で食事ができるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視して食事の全介助をする 本人の家族に伝えてほしいという訴えを理由なく無視して伝えない 本人の意思に反した異性介助を繰り返す など

 

④高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること(性的虐待)

行為例:排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下半身を裸にしたり、下着のままで放置する 人前で排泄行為をさせる、オムツ交換をする

性器を写真に撮る わいせつな映像や写真を見せる  など

 

高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること(経済的虐待)

行為例:日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない 年金や預貯金を無断で使用する  など

以上が、高齢者虐待の類型になります。

行為例で記載されたものの中には「これが虐待に該当してしまうの?」と思ったものはありませんでしたか?

もしかすると、一般社会で考えている虐待と養介護施設従事者等が考える虐待とでは認識がずれているのかもしれません。

だとすると、外部の目で見た場合、普段事業所の中で行われていることが、虐待に該当してしまう可能性があります。

まずは、どのような行為が虐待に該当するのかを理解する必要があります。

もっとも、高齢者虐待は、ある日突然起こるものではありません。

大切なのは、どのような行為が虐待にあたってどのような行為があたらないのか、といった線引きをする、ということではなく、虐待に該当する前の「不適切なケアや対応」がないかしっかりと確認していくことが重要です。

不適切なケアについてこちらの記事に書きましたので、良かったら参考にしてください。

【老人ホーム向け】高齢者虐待と不適切なケアはこちら

 

ここまで、法律上定義されている高齢者虐待の行為類型を見ていきました。

次は、事業所の中で虐待を発見した場合について見ていきます。

職場の職員が虐待しているのを発見したとき

万が一、同じ職場で働く職員が虐待に該当する行為をしているのを発見した場合は、どのように対応するべきでしょうか。

養介護施設従事者等の通報義務

高齢者虐待防止法では、養介護施設従事者等は、自分が勤務する事業所で、職員による虐待を受けていると思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報をしなければならないとされています(法第21条1項)。

ここで、注意する点が2点。

まず1点目「虐待を受けていると思われる・・・・高齢者を発見した場合」と規定されていますので、「確実に虐待をしている」とまでの認識は必要ありません。

結果として、誤認通報になるかもしれませんが、虐待は密室で起こりやすく、何らかの確証がないと通報できないのであれば、早期発見ができない場合も出てきてしまいます。

ですので、確証がなくても「虐待を受けたと思われる」場合には通報して構いません。

2点目。法律上、通報先は市町村になっています。

一般的に、事業所内で起こったことは、事業所の上司に報告をすると思います。

しかし、職員による虐待は、事業所としてはあってはならないことであり、できるだけ外部に知られたくないことです。報告を受けたその上司が、虐待情報を抱え込んでしまったり、握りつぶすようなことがあってはなりません。

そこで、高齢者虐待防止法では、通報先として市町村を窓口にしました。(もちろん上司への報告や相談をしてはいけないというものではありません)

 

通報した人は不利益を受けないの?

高齢者虐待防止法では、通報者が不利益を受けないよう規定しています。

「刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項から第三項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない」(法第21条6項)

ちょっとわからいづらい規定ですね。

認知症高齢者グループホームや有料老人ホームで働く社会福祉士や介護福祉士は「正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士又は介護福祉士でなくなつた後においても、同様とする」(社会福祉士及び介護福祉士法46条)、そして、「・・・違反した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」(同法50条)と、守秘義務が課され、違反した場合には罰則があります。

しかし、高齢者虐待防止法では、要介護施設で勤務する者が、通報義務に従って通報した場合、虚偽や過失のある場合を除いては、守秘義務に関する罪の適用はありません、と規定しています。

もう一つ、通報者を保護する規定があります。それは「・・・通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。」(法第21条7項)という規定です。

通報したことによって解雇や減給、昇進・昇格において不利益な評価を行ったり、不利益な配置の変更を行ったりはされません。

ただ、ここで注意が必要です。法第21条6項のカッコ書きを見てください(第21条7項も同じです)。

「(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。・・・)」としています。

例えば、職場が気に入らないから虐待防止制度を利用して職場を困らせてやろう、と虚偽の通報をしたとします。

その場合は上記のような保護はありません。それは当然ですよね。

また、過失による通報も保護の対象にならないとしています。

過失による通報とは、自分の不注意で職員が虐待をしていると思ってしまい、市町村に通報してしまった、といった場面です。

しかし、この場合に通報した人が保護されないとなると、人によっては、通報を自粛する可能性が出てきます。これでは本来通報すべき虐待も通報されなくなってしまうおそれがあります。ですので「過失の有無」は、必要以上に厳格にとらえるべきではなく、「一般人であれな虐待があったと考えることに合理性があるか」という視点で判断できれば十分です。

高齢者虐待防止法では、通報の窓口である市町村や、市町村から報告を受けた都道府県の担当者は、誰が通報したかを漏らしてはいけないことになっています(法第23条)。これも通報した者を保護する規定です。

 

ここで、通報義務について振り返ります。

①養介護施設従事者等は、職員による虐待を受けていると思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報する義務がある。

②通報したことによる罰則や、職場での減給や配置換えなどの不利益はない。

③虚偽の通報は保護されない。過失による通報の場合、虐待があったと考えることに合理性が認められれば保護される。

通報を受けた後、市町村は何をするか?

通報を受理した市町村は、まず通報者から詳細な情報を聞き取り、迅速に事実確認を行うようにします。そして、コアメンバー(高齢者虐待防止を担当する市町村職員及び担当管理職職員と地域包括支援センター職員など)による会議を行い、緊急性についての判断をします。この時点で、生命や身体の安全に関わる事態であれば、事業所への立ち入り検査を行うなどして、事情聴取や資料の提出を求め、虐待を受けていた高齢者を安全な場所に移すことになります。

緊急性の有無に限らず、養介護施設従事者等介護による虐待が発見された場合には、市町村または都道府県は、改善のための指導を行います。

虐待の内容がきわめて重い場合や、事業所が改善指導に従わない場合には、事業所の指定取消処分といった重い処分も検討されます。

まとめ

最後にこれまで書いてきたことのまとめです。

①虐待の行為類型は、身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待がある。

②グループホームや有料老人ホームで働いている職員は、施設内で虐待を受けたと思われる高齢者を発見したときは、市町村への通報義務がある。

③通報したことによって不利益を受けることはない(虚偽及び過失によるものは除く)。

 

以上です。

ご利用者も職員も笑顔で過ごすことができるように応援しています。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

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プロフィール

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プロフィール

  
スター行政書士事務所 山田拓郎
【事業所理念】一人ひとりが輝ける社会の実現を目指します

福祉事業所設立支援/後見業務/研修事業

神奈川県相模原市

行政書士/介護福祉士/ケアマネージャー/認知症介護指導者(認知症介護研究・研修東京センター)/上級リスクマネージャー/パーソン・センタード・ケアと認知症ケアマッピング基礎コース研修修了

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