パターナリズムとは
広辞苑によると、パターナリズムとは、相手の利益のためには、本人の意向にかかわりなく生活や行動に干渉し、制限を加えるべきであるという考え方です。。
わかりやすくいうと「あなたのために」と他人の行動に干渉し制限をすることです。
このパターナリズムの考え方は、教師と生徒、上司と部下などの関係に見られることがあります。
例えば、高校の校則で「オートバイの免許を取得してはいけない。取得した場合は退学。」と決められている場合です。
このような校則は、決して生徒のことを困らせようとか憎いからといった理由ではなく、
「生徒の安全のため」
と考えて定めていることと思います。
このパターナリズムは、場合によっては人権侵害につながる考え方です。
この記事では、パターナリズムが高齢者施設にどのように影響するか考えてみたいと思います。
福祉施設とパターナリズム
このパターナリズムは、福祉施設に入所しているご利用者と職員との関係でも見られます。
高齢者施設の利用契約が締結された場合、運営する法人(事業所)は福祉サービスを提供し、利用者はサービスに対して利用料金を支払うという義務が生じます。
この関係は、法律上は対等な関係であるといえます。
しかし、法律上は対等な関係でも、実際は対等な関係と言えるでしょうか。
高齢者施設は多くの場合、身体機能の低下や認知症などのため、自宅で生活をすることが困難になった人が利用する施設です。
そこで生活をしている人は、施設職員がいなくては、日々の生活を送ることが困難です。
また、福祉サービスを提供する事業所と利用者では、持っている知識や情報量が全く異なります。
このように考えると、福祉サービスの利用者と職員とは、実質的に対等な関係とは言えないと思います。
実際、福祉施設では、ご利用者の起きる時間、朝食時間、食事の内容、トイレに行く時間、日中の過ごし方(過ごす場所)、入浴をする曜日、就寝する時間など、日常生活の多くの場面で職員がルールを決めていることが多いのではないでしょうか?
このような関係性の中で、パターナリズムは起こると考えます。
施設で働く職員は、決してご利用している人を困らせてやろうとか、人権侵害をしてやろうなどというつもりはありません。
むしろ「ご利用者のために」熱心に仕事に取り組む人たちだと思います。
- 健康を維持するためには、ご利用者が少しくらい嫌がっても3食全量摂取するように介助しなければならない。
- 褥瘡を作らないように、夜間寝ているところを起こして無理やりおむつ交換をするべきである。
- ご利用者が転倒しないように、車いすから立ち上がれないようにベルトを使用する。
全て「利用者のために」ということだと思います。
提供しているサービスを振り返る
パターナリズムがすべて悪いと言っているわけではありません。
しかし、パターナリズムは人権侵害につながる危険性を持っているので意識しなければなりません。
では、福祉サービスを提供する上で、どのような考え方が必要でしょうか。
ここで社会福祉の全分野の共通事項を定めている社会福祉法の規定をみてみましょう。
(福祉サービスの基本的理念)
福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。(社会福祉法 第3条)
ここで「個人の尊厳」と出てきました。
この「個人の尊厳」は、介護保険法や障害者総合支援法の目的規定にも明記されています。
福祉関係の法律に「個人の尊厳」が明記されているのは、福祉サービスを受ける人は、個人の尊厳が侵されやすい状態にあることの裏返しと言えます。
現状、提供している福祉サービスは、個人の尊厳を保持できているか?
提供している介護サービスが、真に利用者のためになっているのか?
日々、自らのサービスを振り返り、ご利用者やチーム職員と一緒に考え続けることが必要だと思います。