介護保険制度の通所介護(以下:デイサービス)とは、要支援者や要介護者がデイサービスセンターなどへ通い、食事、入浴、排泄などの介護を受けたり、レクリエーションや機能訓練を行ったりする日帰りの介護サービスです。
デイサービスを開業するためには、様々な手続きや準備が必要です。
以下、デイサービスを開業するまでの主な流れについてまとめてみました。
デイサービスの開業を考えている方のお役に立てれば幸いです。
目次
事業所のコンセプトや開業する地域を決定する
法人格取得
物件の契約・改修
開業資金・運転資金の調達
職員の採用
介護事業者指定申請
車両や事務機器等の準備、各種書類の整備
開業
自分はなぜデイサービスを開業しようと考えたのか、どのようなデイサービスを地域の中で運営していきたいのか、ということが開業のための出発点になります。
その上で、他のデイサービスと差別化できるポイントや、ご利用者がメリットとして感じるポイント、開業資金や運転資金はいくら必要なのかなど頭の中で考えているものを整理し、具体的に事業計画書の中に落とし込みます。
また、どの地域でデイサービスを開業するかを決定します。
その際、自分が開業したいと思っている地域の高齢者人口や要介護者人口、他のデイサービスの数を把握することが必要です。
なぜ、事業計画を作成したり、地域の情報を知らないといけないのか。
それは「儲かると思って始めたけど、儲からないからやめた。」「思ったより大変だからやめた。」といった理由で安易に事業をやめてしまっては、ご利用者や働いていた職員に迷惑がかかってしまうからです。
平成29年10月1日現在、全国のデイサービスの数は、通所介護23,767事業所、地域密着型通所介護21,064事業所、合計で44,831事業所です。
コンビニエンスストアと数が55,000~60,000事業所と言われていますから、その数が多さが分かると思います。
介護分野は成長産業と言われますが、これだけ数が増えると競争も激しく、倒産してしまう事業所も増加傾向にあります。
参考までに老人福祉・介護事業の倒産件数を載せました。
継続して事業を続けるためにも、行き当たりばったりで事業を始めるのではなく、しっかりとした計画を立てることが必要になります。
デイサービスを開業するためには、法人格(株式会社、合同会社、NPO法人、一般社団法人など)を取得しなければなりません。
法人の種類については以下を参考にしてみてください。
株式会社 | 合同会社 | NPO法人 | 一般社団法人 | 社会福祉法人 | |
目的・ 事業内容 | 問わず | 問わず | 公益の推進 20の特定非営利活動事業 | 問わず | 社会福祉事業 |
資本金・ 基金 | 1円以上 | 1円以上 | 不要 | 不要 | 不要 |
設立費用 自分で手続した場合 | 登録免許税等で 最低24万円以上 | 登録免許税で 最低6万円以上 | 0円 | 登録免許税等で 約11万2千円 | 0円 |
設立時 必要人数 | 株主1人以上 | 社員(出資者)1人以上 | 社員(会員)10人以上 | 社員2人以上 | 理事6人以上 監事2人以上 理事の2倍超の評議員 |
設立期間 | 1か月以内 | 1か月以内 | 5か月程度 | 1か月以内 | 2年程度 |
税金の優遇 | なし | なし | あり | 非営利型法人の場合 あり | あり |
監督所轄庁 | なし | なし | 所轄庁の監督あり | なし | 所轄庁の監督あり |
厚生労働省 平成29年開設(経営)主体別の状況によると実際のデイサービスの実施主体は、株式会社や合同会社といった営利法人の割合が高くなっています。
法人格を取得した後は、法人名義で物件の契約を行ったり内装工事を行ったりすることができます。
最初に決めたデイサービスのコンセプトに合った物件を探し、改修工事を行います。
機能訓練に特化した半日のデイサービスであれば浴室やキッチンは必要ありませんが、機器を設置するための広いスペースが必要です。
また、家庭的な雰囲気で利用してもらうためには改修工事が必要になるなど、事業所のコンセプトによって契約する物件や改修する内容は異なります。
また、事業所を運営するためには、定められた設備基準を満たさなければなりません。
自治体によって細かいルールが違っていることもあるので、物件の選定や改修の際には自治体の担当者と相談することをお勧めします。
デイサービスの開業前には、設備資金(物件の改修費や保証金、備品など)がかかります。
また、介護保険制度上、収入の9割は介護サービスを提供してから2カ月遅れで入金されますので、開業後も職員の給料や家賃なども必要になります。
自己資金で足りなければ、融資を受けるようになります。
デイサービスを開業するためには、人員基準を満たす必要があります。
介護事業者指定申請をする時点で採用する職員を確定して、自治体に雇用契約書や勤務表を提出しなければなりません。
しかし、現在介護職員など働く人を募集してもなかなか集まらないのが現状です。
求人広告やハローワークだけではなく、SNSなども使って事業所の魅力を発信していくことが大切です。
介護の仕事をやりたい人の中には、人一倍介護に対する思い入れが強い人がいます。入職はしたけど、管理者や他の職員と考え方が合わずにすぐに退職、ということも少なくありません。
採用する前に、しっかりと事業所の理念や管理者の考え方を伝え、「ここで働きたい。」と思ってもらうことが大切です。
物件の改装や職員採用が終わったら、都道府県または市町村に介護事業者指定申請を行います。
指定申請時には以下の書類が必要になります。(相模原市の場合)
・介護サービス事業者指定(許可)申請書
・申請者(開設者)の登記簿の謄本(登記事項証明書)の原本(写し不可)
・賃貸借契約書の写し又は建物の登記簿の謄本(登記事項証明書)の原本
・建築物等に係る関係法令確認書
・通所介護事業者(通所介護相当サービス事業者)の記入事項(付表6)
・従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
・従業者の資格証の写し、雇用が確認できる書類
・事業所の平面図
・事業所の写真
・送迎車両の車検証の写し、駐車場確保が分かる書類(賃貸借契約書等)
・運営規程(料金表含む)
・利用料金表、食費の積算根拠がわかるもの(食事を提供する事業所のみ)
・プログラム
・利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
・損害保険証書等の写し
・法人代表者等誓約書
・管理者誓約書
・介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
・介護給付費算定に係る体制等状況一覧表
・チェック表及び誓約書等の添付書類
【加算を算定する場合のみ】
・事業所規模点検書及びチェック表及び誓約書
・老人居宅生活支援事業開始届
・老人居宅生活支援事業開始届添付書類
(収支予算書、事業計画書等)
・老人デイサービス等設置届
・老人デイサービス等設置届添付書類(事業所位置図)
・業務管理体制整備に係る届出書(第1号様式)又は業務管理体制整備に係る変更届出書(第2号様式) ※相模原市のみで介護サービス事業所を運営する法人のみ。
書類に不備がなく、基準を満たしていれば、一般的には申請書類を提出してから約1~2か月程度で、指定介護サービス事業所として指定されます。
車両は、何人乗りにするか、車いすが何台入るタイプにするかなど決めます。
また、事務用品や事業所で準備をしておいたほうが良い介護用品(車いすなど)も開業の前に準備をしておきます。
国民健康保険団体連合会(国保連)へ介護報酬を請求するためのソフトの導入や、重要事項説明書・契約書の作成、各種マニュアルの作成、職員研修、職員の保険や給与の手続き等の開業のための準備をしておきます。
事業所の指定がされた後は、事業所として介護サービスを提供することが可能になります。
ここまで通所介護(デイサービス)事業所の開業のために必要な手続きになります。
最後までお読みいただいてありがとうございました。